記録容量無限大時代の電子文書管理 ~ 文書は、ただ残すだけでよいのか? ~

コラム
データ管理

ストレージのビットコストの低下が進んでいます。各種のクラウドサービスにおいても、容量当たりの利用料金は低下傾向にあり、中には、容量無制限とするものの利用も進んでいます。これまでは、ファイルサーバの容量が足りないからと情報システム部門が利用者、利用部門に向けて、不要ファイルの削除要請をしていたが、このようなことは、もはや過去の想い出になるかもしれません。

それでは、記録容量が無尽蔵にあるのだから、作った文書、発生した記録などは、ただ残しておけばよいのでしょうか?今回は、このポイントについて考えてみたいと思います。

ファイルサーバがごみ箱化したことはないですか?

皆さんの職場では、「ファイルサーバの利用において、他者の登録したものは探せない・利用できない。果ては、自分が登録したものさえ見つけ出すのに苦労する。」というようなファイルサーバのごみ箱化問題に直面したことがあると思います。

そのような中でも、これまでは、ストレージコストの制約からファイルサーバの容量に制約があり、ある程度不要と思われるもの、時には必要なものも含めて、削除してきた実態があると思います。

つまり、ファイルサーバに容量制限があるお陰で、完全に管理された、整理・整頓された状態とはいいませんが、最低限の整理・整頓が行われてきたとも言えます。

記録容量の制約がなくなったら、ただ残すだけでよいのか

紙文書については、事務所の広さの制約があり、設置できる書架の収納量も限られていることから、不要文書の廃棄や使用頻度の低い文書を事務所外の倉庫に外だしする活動が、これまでも行われてきました。全社旗振り役は、事務所や書架を管理する総務部門が担うことが多いです。

電子文書については、これまでは、ストレージコストの制約から不要文書の削除が必須でした。全社旗振り役は、ファイルサーバを管理するIT部門となっていました。

ストレージのビットコストが下がりファイルサーバやクラウドストレージにおける記録容量の制約が無くなるとIT部門としては、不要ファイルの削減を呼びかける理由がなくなります。では、利用部門は、好き放題に、作成した文書や発生した記録を漫然と残しておけばよいのでしょうか。

答えは、「NO」です。必要な文書を見つけられなくなってしまい、文書を保有する意味がなくなってしまうからです。なんらの整理・整頓が進まないと、ファイルサーバであれ、クラウドストレージであれ、ごみ箱化が深刻化します。

これからは利用部門が主体的にごみ箱化対策する時代です

文書を、記録を残すということは、その内容を確認、活用してこそ初めて意義があります。ただ残しておくだけなら意味もないし、必要がありません。そして、不要な文書・記録が大量にあることの一番の問題点は、必要な文書、記録を見つけるのに膨大な時間を要することになり、さらには、探索不能に陥ってしまうことです。

このような事態に陥らないように、これからは、ユーザー部門が主体となって、不要なファイルを削除し、必要な文書・記録を容易に探し出せるようにフォルダ体系等の整理を行う必要があります。

ごみ箱化させないためにはどうすればよいか

ユーザー部門で、ファイルサーバ、クラウドストレージをごみ箱化させないための代表的な施策を以下に紹介します。

1.組織の記録とそれ以外を混ぜない
会社、組織に取って残すべきものと、それ以外を区別し、その保存先を混ぜないことが一番肝心です。

2.登録しやすいフォルダ体系の設定
次に、文書・記録の登録作業の効率がよいフォルダ体系、ファイル名を設定することが必要です。

3.保存期限の管理とルールに従った実行
フォルダごとに保存期限を設定し、ルールに従った実行を行います。
文書・記録はただ残しておいただけでは、ごみ同然なので、組織としての管理の限界を超える量を保有することは好ましくありません。この点について、次に説明します。

保存期間の設定の考え方の基本

保存期間の設定には、以下の3要素を考慮することが必要です。

①法定保存期間
・各種法律、ガイドラインなどで必要とされる保存期間

②記録活用期間
・業務観点、ノウハウ蓄積などの観点から必要な保存期間

③データを保有することによるリスクの抑制
・情報漏洩、e-discoveryなどの訴訟リスクの観点から管理し得る範囲にする
この3要素を用いて、保存期間を設定した例を図2に示します。

文書、記録の活用を前提とした保存期限を設定しよう

各組織においては、現在、文書保存期限一覧表なるものが存在している場合もあるかもしれません。しかしながら、その期限設定は、紙文書の時代が、前提だったかもしれません。つまり、紙文書の時代には、文書・記録を残すには、スペースが必要であったこと、十分な検索手段がなかったことから、 残っていれば有用だと考えられても、保存期間は短めに設定されている可能性があります。

そこで、まずは、残しておいて有用なのはいつまでかという観点で、必要要件を洗いだします。 そして、残すはいいが、どうやって検索するかを検討します。必要に応じ、新たなIT手段の導入も検討します。一番簡単には、フォルダ階層とファイル名による検索となりますが、これで不足の場合は、文書・記録登録台帳や属性情報の利用も検討するとよいでしょう。

そして、リスク抑制の立場から、残した文書・記録を抽出する手段を準備します。

保存期間の管理と実行

こうやって、保存期間を決めた後は、実際に、保存期間を満了した文書・記録のファイルを削除していく必要があります。対応方法としては、大きく2種類あります。

一つは、フォルダ体系に、登録年、保存期間を持ち込み、これを人手、手動で運用・管理していく方法、 もう一つは保存期間管理機能をもった文書管理システム、クラウドストレージを利用して半自動で運用・管理していく方法です。

まとめ

文書・記録の保存においては、記録容量無限大の時代に入りつつあります。これまでは、ファイルサーバの容量制約の関係から、ファイルサーバ内の不要ファイルの削減活動の旗振り役をIT部門が担ってきましたが、容量制約がなくなれば、IT部門が担う理由もなくなります。 かといって、不要ファイルの削除活動を怠ればファイルサーバ、クラウストレージはごみ箱と化します。 このため、今後は、保存した文書・記録を活用するユーザー部門が主体となって、不要ファイルを削除する活動が必要になります。

これまで、日本のユーザー部門では、法定保存文書を除けば、保存期限管理はあまり着目されてきませんでしたが、今後は、米国・欧州のように日々の運用として必要になるのではないでしょうか。

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