電子契約サービス マルチベンダー時代に向けて

コラム
データ整理

コロナ感染症対策としてのテレワークの必要性の増大により、テレワークの阻害要因となった「押印」を廃止のため電子署名を使った電子契約の導入が進みました。さらに、最近では電子契約サービスの種類が大幅に増えて来ています。

電子契約の利用については、大きく2つの立場があります。一つは、契約を依頼する方(依頼元)と契約を依頼される側(依頼先)です。電子契約については、これまでは、どちらかというと依頼先の立場で利用する電子契約サービスを選定するということに重点が置かれてきたかも知れませんが、今後は、相手先がこのサービスを使ってくださいと指定して使っている依頼先の立場も増えてくると思います。つまり、これからは、マルチベンダーの利用を求められる時代になってきます。

コロナ禍では、テレワークできることが重要な課題でしたので、「テレワークで契約締結できること」が注目されておりましたが、契約書の役割という点では、今後は、むしろ、円滑に利用できることが重要ともいえるのではないでしょうか。

今回は、電子契約サービスをマルチベンダーで利用する場合、特に契約締結後に留意すべき事項について紹介いたします。

1. 電子契約サービスの利用形態動向

最近は新たな電子契約サービスの提供が増えております。2022年8月8日のLISXULの記事「【2022年版】おすすめ電子契約サービス38選を徹底比較!選び方のポイントも紹介」によれば、38サービスが紹介されています。
https://liskul.com/electronic-contract-service-comparison-45929

図1 電子契約サービス マルチベンダ利用時代

コロナ禍の初期の頃は、テレワーク対応が重要課題で、自社が契約の依頼元となることを想定して、殆どの場合、自社が選んだ1サービスを利用できることを目指して調査・準備が進みました。実態は、自社が主導権を取れる取引先に自社指定のサービスを利用してもらうことが多くありました。

ところが、電子契約の利用が進んできて、自社と相手先が対等あるいは相手先が主導権をとるようになると、さすがに、先方から指定されたサービスを利用せざるを得ない局面も増えてくる傾向にあります。

この様子を図1 電子契約マルチサービス時代に例示しています。当初は、A社の電子契約サービスを評価、採用して取引関連会社との間で済んできましたが、最近では、自社より大きな会社や対等な関係の会社から電子契約をするよことを要求されることが増えて来ています。そうなると、A社だけでなく、他のB社~F社の電子契約サービスについては、少なくとも、依頼先として対応できることが必要になってきております。すなわち、電子契約サービスのマルチベンダー時代が始まっております。

2. 契約締結後の電子契約書の管理も重要

表1 利用部門からみた契約書のライフサイクル

表1に利用部門からみた契約書のライフサイクルを示します。電子契約については、これまでのところ、契約を締結するところ、署名するところが注目されて来ました。契約書は、利用をすることが本来の役目ですから、これからは、契約締結後の管理の仕方をしっかり確認して行ってはどうでしょうか。

特に、電子契約サービスをマルチベンダーで利用せざるを得なくなってきている現在、留意しておかなければいけないことがあります。

一つは、利用部門・利用者への契約の周知のための契約書の共有管理です。

もう一つは、訴訟等のトラブルになった場合の契約書自体の真正性の証明です。

3. 契約書の共有管理に関する留意点

最近の電子契約サービスの多くが、サービス利用契約者には、会社毎に、契約済の契約書を保管する場所を提供しています。会社内部の組織に応じ分割することもできます。しかし、電子契約サービスをマルチベンダーで使うことを想像してみてください。図1のようにA社だけでなく、B社~F社までは少なくとも依頼先としては対応しなくてはいけないときは、次のような留意点・課題が出てくると考えます。

① 契約先サービスの追加による費用負担増
依頼された場合も契約済の契約書を組織別に管理しようとするとA社以外の他のサービスとも契約し、必要な費用を支払う必要が生じ、負担が増えます。

② 分散した環境で管理が複雑になる
例え、他のサービスについても組織的に管理する場所を確保できたとしても、管理場所が分散され、管理方法も様々となり、管理が複雑であり、利用者にとっては使い勝手の悪いものになると推定します。

そこで、契約済の契約書については、特定のサービス会社に依存するのではなくいずれ、別途、統合管理を行うことが必要になると考えます。

4. トラブル対応時の契約書の真正性の証明

多くの電子契約サービスは、その真正性の証明のために、PKIを用いた電子署名、タイムスタンプを利用しています。 電子署名単独ですと、その有効期限は2~3年程度であり、長期署名(延長タイムスタンプ)を付した場合でも有効期限は、10年となっています。このように、電子署名、タイムスタンプは有期であり、最長でも10年ということから電帳法でもタイムスタンプを利用する場合は期限切れを起こしていないか、確認するための一括検証機能を要求されています。

このように、電子署名・タイムスタンプが有期であることに対する新たな対策としては、国内の電子契約サービスでは、サービスの利用契約が続く限り、契約済で、保管を引き受けている契約書については、有効期間を延長する長期署名を自動的に付してくれるものも登場してきています。

これでも安心できないことがあります。通常、電子契約サービスでは署名ルートに入っていた人なら、後にその契約書を取得しようとしても可能(ダウンロードできる)になっています。しかし、20年後、30年後となった時に、署名に関わった人が社内に残っていることは期待薄となります。

そうなると契約締結時にダウンロードして保管していた電子ファイルがあっても真正性の証明ができません。

図2 長期署名フォーマット

そこで、必要になるのは、各サービスにおいて、過去の契約書の全てをダウンロードできる権限をもつスーパーバイザーを設定し、会社として運用することになります。

そのようなスーパーバイザーを設定できないサービスについては、早急にサポートされることを望みます。

中には、極秘の契約もあるでしょうから、単純に各部門にアクセス権を渡すことも適切ではないと考えます。法務部門等の中の限られた人が、このような権限を持ち、訴訟につながるトラブルが発生した時点で、最新の長期署名タイプスタンプが付された契約書を入手し直すのが適切ではないでしょうか。

5. まとめ

これから、電子契約の利用が本格化し、マルチベンダー利用時に突入します。

マルチベンダーにまつわる留意点、課題を確認して頂き、

・大企業、中小企業に関わらず、必要な備えをして頂く ことをお勧めするとともに

・ITサービス会社には、マルチベンダー利用時の課題を解決して頂けるサービスを提供 して頂けることを心待ちにしています。

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