あなたの組織は大丈夫?必要な情報を次世代に引き継いでいけますか?
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5Gの到来による情報量の増加やAI(人工知能)・機械学習のためのデータ活用の普及など、今まさに、ビッグデータの時代に突入しています。これによりデジタル文書や映像、IoTデバイスが急激に増加し、企業のデータ保有量は年々増加しています。Dell EMCによると、現在、日本企業が管理しているデータ量は1社あたり8.88PBであり、2016年の1.29PBから比べて588%増加しているとのことです※1。このように急激にデータ量が増加する時代に、どれほどの方が次世代に必要な情報を引き継いで行くことに意識を向けているでしょうか。
ありがちなパターンは、「自分が責任者の間の数年を何とか無事に過ごせればいいや。10年、20年先のことより今が大事、他にすることもあるので、考えるのも面倒だから手を抜いておこう。」というものです。このパターンになってしまうと、地雷が埋まっているようなもの。いつの日か、ひょっとすると、10年も立たない間にシステム障害や地震等の天災を契機に問題が発生し、重要なデータを喪失したり、読み出せなかったり、情報漏洩してしまったりするものです。
今回は、前半では企業で残さないといけない情報にはどんなものがあるかを確認し、後半では、その残し方や留意点などを検討していきます。
※1.Dell EMC 2019.4リリース。調査対象は、250人以上の従業員を持つ企業。
データ量の増加につきましては、映像データの急増に加え、紙文書からデジタル文書への移行、さらには証拠性担保のための保管ニーズ拡大が背景にあります。
1.残さないといけない情報とは
情報を残す目的としては、以下のようなものがあります。
・法律で定められている
・ISO/JISや、業界の取り決めルールによるもの
・営業秘密
・製品保守のため、施設保守のため
・再利用のため
・説明責任のため、自己防衛のため、証拠保全のため
・技術伝承のため、価値創造のため
・その他組織で必要と定めたから
2.どのくらいの期間残さないといけないのか
次に検討するのは、「そのデータをどのくらいの期間残さないといけないのか。」です。
法律や業界ルールで定められた情報(法定保存文書)については、どこの会社でも残そうとしています。一番気をつけなければいけないのは、一つの情報(文書等)が、複数の目的で保管・保存されることがあることです。特に、法令や業界ルールで定められた通りの年数を超えて保管・保存が必要な場合があります。
一般に製品や施設については、その利用の間は必要で、長くなる傾向があります。例えば建築図面や橋梁、トンネルの図面は、法律で保管期限が決められているものの、実際には、施設を使用している限り必要です。また、医療記録なども医師法で定められてはいますが、大学病院などでは、学生の教材として、またクレームや訴訟から医師を護るため長期保管されています。
また、技術伝承や価値創造のケースも保存期間が長くなることが多いです。例えば、研究データ、研究論文、観測データ、ゲノムデータ、技術開発記録、障害解析記録等です。
最近では、大量のAIの学習データは、再利用や訴訟対応などさまざまな目的のために残され始めています。
3.石に刻みますか?
超長期に残そうと思うとロゼッタストーンのように、情報を「石に刻む」という選択肢もありますが、石に刻むコスト、石で残すコストが大きく、大容量データには向いていません。ただ、研究レベルではありますが、薄い石英ガラス内部に、レーザー光でブルーレイディスク並みの記録密度で、大量のデータの記録・再生を行う技術があります。これは将来に期待ですね。
4.どの媒体に残せばいいの?その前に知っておくべきこと
では、実用的な範囲で言えば、どの媒体に残せばよいのでしょうか。少量ですと、紙やマイクロフィルムが選択肢となりますが、大容量の場合は電子媒体を使うことになります。どの媒体に残せばよいの?と考えがちですが、その前に知っておいて頂きたい事項がありますので、ご紹介します。
(1)指定の環境条件を守ること
電子媒体、電子ストレージとしては、SSD、HDD、磁気テープ、光ディスク等がありますが、ま
ずは、指定の動作環境、保管・保存環境を整えることが重要です。温度・湿度の環境条件が守られ
ないとその媒体の期待寿命は大幅に短くなります。逆に、環境条件がよいと期待寿命は通常よりも
長くなります。極端なことを言えば、電子媒体をアルゴンガスなどの不活性ガスで封印すれば、媒
体自体は100年を超えてデータを保持することができます。実際、大阪万博のEXPO’70のタイム
カプセルには、アルゴンガスに封印されて音楽テープも収納されています。
(2)読取り装置を維持することは大変
媒体そのものも重要ですが、読取り装置の維持は重要です。デジタル機器は進歩が激しく概ね10年
も経つと読取り装置の入手も困難になります。そこで、新しい世代の電子媒体にデータを移行する
「マイグレーション」が必要になります。磁気テープでは、確実な長期保存のために、10年毎のマ
イグレーションが推奨されています。
(3)読取りソフトの永続性
媒体が物理的に維持され、読取り装置があって、データを“01”のビット列で読み出せても、OS含
め読取りソフトがあって始めてデジタルデータは意味あるのものとなります。皆さんもご存じのよ
うに、文書の場合は、PDF/Aを選んでおけば、将来に渡って読出しについては安心できます。逆
に言えば、読取りソフトが維持されない場合は、維持されなくなる前に、新しい形式に書き直す必
要があります。
(4)PKIタイムスタンプ
PKIタイムスタンプの有効期間は10年です。10年を超える保存を行う場合は、長期署名タイムスタ
ンプを使って、有効期間を延長するか、そのままにしておくかの判断が必要です。そのままにした
場合は、PKIとしては証拠性を担保できませんので、物理的に安全な環境で管理する等の別の手段
が必要となることもあります。
(5)暗号化データ
暗号の掛かったデータについては、鍵管理が重要です。また、使用した暗号のアルゴリズムが危険
な状態になる前に、新暗号アルゴリズムを使ってデータの暗号化をし直すか、そのままの状態で物
理的に安全な環境で保管するか等の対策を考える必要があります。
5.媒体を組み合わせて保管する
(1)情報(データ)の重要性を見極める
残したい情報が決まったら、まず、その重要性を見極めます。つまり、喪失した場合の損害やリス
クを考え、データを喪失しないための手段をどこまで講じるのかを決めていきます。磁気テープ、
光ディスクのような電子媒体は、SSDやHDDに比べ、アクセスには時間がかかるもののデータを
失うリスクが低いので、重要度の高いデータ保管には利用をお勧めします。
(2)参照頻度、参照時間余裕を確認する
重要データを磁気テープや光ディスクに保持した場合、参照頻度が高い場合は、アクセス時間の速
いSSDやHDDにもデータの写しを置き、アクセス時間のかかる電子媒体にまで、アクセスさせな
いようにする必要があります。また、参照頻度が低い場合でも、参照のリクエストから参照できる
までの時間の余裕(参照時間余裕)が少ない場合にも、SSDやHDDを使ってアクセス時間を速め
ます。
(3)留意事項
データの保管期間が短くても重要な場合があります。保管期間が短いからと手を抜いていることも
見かけますが、そのような場合にも、データを失わない対策を十分に講じる必要があります。
6.より安全にデータを保管する
(1)バックアップ&リストアの確認
SSD,HDDの場合は、RAID構成等の冗長化を行うのはもちろんのこと、バックアップシステムを備
え、バックアップはもちろん、リストアの確認まで確実に行う必要があります。障害が起きて、い
ざリストアしようとした時に戻せないという事例は多くあります。確認していない場合、幸運にも
戻せるなどということはあまり期待できません。
(2)先人の知恵「1Copy Offsite,2Different Media,3Copies」
データ記録の専門家の間で世界的に広く知られている概念です。この考えをデータの保管・保存に
応用しましょう。
・1Copy Offsite;1次データ(Primary Data)の保管・保存場所とは離れた少なくとも1箇所
以上にコピーを持つこと。これにより、災害や火災から逃れられます。特に、震災の多い日本では
遠隔地に保管・保存することが必要とされています。
・2Different Media;保管・保存は2種類以上の媒体を使用すること。すなわち、同じ原理のシ
ステムで保管・保存した場合、共通の不良でデータを失うことがあるので、保管・保存する媒体、
もしくはシステム自体を2種類以上持ちます。
例えば、磁気テープと光ディスク、異なる2社のクラウド、または、クラウドとクラウド外に磁
気テープで外出しするなどです。「どの媒体に残せばよいか。」という問いに対しては、方式の異
なる2種類以上の媒体を使うことをお勧めします。
・3Copies;1次データ含め3個以上のコピーは必要です。
(3) 保管・保存への専門会社の利用
遠隔地での保管・保存の場合、スペース効率、セキュリティ、耐震性や保存環境維持などを考える
と、自社ではなく、外部の専門会社に委託する方が費用的にもメリットが出ることが多いです。
まとめ
戦後、日本企業は欧米に追いつけ追い越せと目の前のことに一所懸命取組んできました。幸いなことに、終身雇用や年功序列のおかげもあり、チームも個人も属人的な頑張りで企業を支えてきました。しかしながら、ここに来て、終身雇用や年功序列も崩壊の様相を見せ、企業として個人に依存するのは危険な段階に差し掛かっています。
以前は、欧米は記録管理がしっかりしていて、日本人の意識が低いと言われたこともありましたが、実は、欧米では個人に依存できないので、企業として必要な情報を自己防衛としてルールを策定、仕組みを作り、保持していたに過ぎないとも考えられます。働く人の流動性を高めていくのであれば、企業の継続的発展のために、企業は従業員に頼らず、経営層自ら、必要な情報を残し、活用していく仕組み作りをしていかなければなりません。また、企業のステークホルダーは、経営層がどのような考えをもって会社経営を進めているかをモニタリングしていく必要があります。
今回は、このような企業向けに、(1)残すべき情報(2)情報の残し方についての最も基本的な考え方について整理しました。是非、ご活用下さい。