オフィスで簡単利用、10年以上記録保存可能なデバイス、媒体が登場!~第4回 オフィス環境で楽々10年以上保存~
- コラム
- BD-R
「オフィスで簡単作成、オフィス環境で楽々10年以上保存シリーズの第3回目はBD-Rに採用された新方式の書込み後の自動品質チェック機能について説明しました。第4回(最終回)は、「オフィス環境で楽々10年以上保存」について説明します。
尚、パイオニア株式会社殿に取材のご協力を頂きました。
オフィス環境は記録媒体の長期保存にとってやさしいのか?厳しいのか?
ご存じでしたか?実は、オフィス環境は、記録媒体の長期保存にとって厳しい環境なのです。
では、オフィス環境とは具体的にどのような環境なのでしょうか。この指針が、厚生労働省から発せられている省令「事務所衛生基準規則」です。令和四年十二月一日施行版では、以下の通りとなっています。
【空気調和設備を設けている場合】 温度 18℃~28℃、湿度 40%~70%
どうでしょうか。実感と合いますか?実際の事務所の環境は、もう少し温湿度ともに幅が広いように感じられます。
一方、JIS Z 6017 電子化文書の長期保存方法 では、光ディスクの30年保存のための長期保存環境を 温度 10℃~25℃、湿度 40%~60% としています。長期保存用の光ディスクを使う場合も、このレベルの温湿度制御を求められています。これから、光ディスクの長期保存環境の方が、事務所衛生基準規則より、高温・多湿に厳しいことがわかります。
これは何を指しているかというと、より空調を効かせて室温が高温・多湿にならないようにすることが求められています。空調のためのエネルギーが余分にかかる、あるいは、専用の空調機が必要になるかもしれません。これが、オフィス(事務所)内で光ディスクを長期間保存することを阻んできました。
では、光ディスクは他の記録媒体、例えば、磁気テープのLTOや長期保存で有名なマイクロフィルムに比べて温湿度に弱いのかというと、それは逆で、磁気テープやマイクロフィルムよりも温湿度条件には強いのです。磁気テープ、マイクロフィルム共に、温度25℃以下で、厳しい湿度制御を必要としています。
マイクロフィルムは永年保存できるイメージをお持ちかもしれませんが、保存条件は下表の通りであり、事務所衛生基準規則の条件では、10年も持たないことがわかります。
このように、オフィス環境で記録媒体を10年保存することは、これまでは難しかったのです。このため、記録媒体を長期保存するには、専用の空調設備を備えた保管業者に委託することが多いのが現状です。さらに、事務所衛生基準規則にしても、実運用上は、基準規則以上の高温多湿や、低温少湿な環境となってしまいます。
JIS Z 6017 電子化文書の長期保存方法 では、長期保存環境ではなく、オフィス環境として温度 5℃~30℃、湿度 15%~80% を規定しています。こちらの方が、実際のオフィス(事務所)の環境に近いと考えますので、以降の記事では、パイオニアのBD/DVD/CDライター「BDR-WX01DM」とアーカイブ対応BD-Rディスク「IPS-BD11J03P」が、どのような寿命特性を持つのか確認します。
一般に、材料の劣化は分解や酸化、重合などの化学反応などで進みます。そして、アレニウスの法則により、寿命の対数と温度逆数が比例する関係となります。下図は、ある材料について、100℃、80℃、60℃で、寿命を実測定し、使用温度が20℃の時に寿命が1年と予測した例です。
この原理を用いて、光ディスクの寿命予測も行っています。
この製品は、JIIMA(公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会)のアーカイブ用光ディスクの認定を受けていますので、JIIMA指定の第三者検証機関により、ISO/IEC 16963による寿命試験を受けています。本製品の寿命試験結果は、図2のようなものでした。ISO/IEC 16963では、4つの温度湿度条件で、寿命測定を行い、寿命を予測しました。
通常は、25℃ 相対湿度50%(長期保存時条件)で算出します。今回は温度30℃ 湿度80%で算出して、ほぼ100年という結果が出ています。
したがって、事務環境での10年の保存寿命は軽くクリアします。真夏に一時的に冷房が切れたり、2・3日輸送のため高温に晒されたりしても問題ないことがわかりました。この点は、磁気テープに比べると圧倒的に優位な点となっています。
素人判断は危険、JIIMA認証がデータ記録に利用する目安です
CD-R、DVD-R,BD-Rの用途は大きく分けて2つあります。一つはデータ保存、もう一つはデータ配布・データ提出です。
データ配布・データ提出の用途の場合は、データ保存レベルまでは求められませんので、メーカーは保存のために必要な機能や品質については追求せず、製品原価を下げ、価格を下げて販売します。これ自体は悪いことではないのですが、買い求めるユーザー側で判別できないと混乱が生じます。
実は、1990~2000年代には、このような混乱が起きていました。業務用のMO,DVD-RAMと民生向けのさまざまなレベルのCD-R,DVD-Rが混在して販売されていました。
当時は、「CD-Rを使ったらすぐデータが読めなくなった。光ディスクを利用するのは危険だ!」などと喧伝されたこともありました。雑誌でも、確かな技術の裏付けのないまま取り上げられることがありました。データが読めなくなったCD-Rを一概に粗悪品とは言えないのです。配布用のCD-Rならば、読めなければ、読めるCD-Rを再送すればよいだけだからです。
こんな混乱期が続いたあと、本当の長期保存のために光ディスクを必要とする段階になり、光ディスクに造詣の深い人が必要になってきました。
光ディスク業界では、長期保存のためのISO,JISを制定しました。このJISを使って、2015年 公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、「アーカイブ用光ディスク製品認証制度」が始めました。
この認証制度では、光ディスク(媒体)とドライブをセットで認証し、認証を取った製品には、下図のような認証ロゴマークの表示を許可し、ユーザーが認識できるようにしています。
最近ではネット上に製品レビューをつけることができ、また、それを購入判断に利用しておられる方も多いとは思います。しかしながら、光ディスクの長期保存性については、高度な知識と確かなデータが必要ですので、製品レビューを鵜呑みにする前に、「JIIMA認証ロゴマーク」の確認をお勧めします。
光ディスクはなぜ読めなくなる?
光ディスクには、データを読み出せる寿命があります。それは、どのようなメカニズムになっているのか知っておくことが、光ディスクをデータ保存に利用するための助けになると思いますので、ご紹介します。
「電子文書の長期保存と見読性のガイドライン」平成17年2月次世代電子商取引推進協議会(ECOM)では、光ディスクにデータを「記録した直後」と「経年後」の再生信号について以下のように説明しています。以下は、引用です。
■再生信号とデータの記録状況
私たちがデータをパソコンから記録デバイスに書き込むとデータは、媒体に記録されます。媒体に書き込んでデータを読み込むと記録装置内では、ヘッドから信号が読みだされます。これが再生信号です。データの再生信号は、図A,図Bの「データ正常読出し範囲」に波形の先端があれば、記録デバイスで、0,1が正常に判定できますが、それ以下のときは、0,1が正しく判定できなくなります。記録直後のデータエラー数がECC(エラーコレクションコード)の訂正範囲内である場合は、データはエラー訂正され正常なデータがパソコンに渡されます。しかしながら、かすれ書き部では、経年変化後、読み出しエラー部が拡大し、ECCの訂正可能範囲を超え、以前読めていたデータも読めなくなります。
出典:電子文書の長期保存と見読性に関するガイドライン
上図は、BD-Rでデータを記録した記録層を電子顕微鏡で見たところです。記録マークの部分が、強いレーザーの照射で、組成が変わっています。
今回のBD-Rでは、溶融しています。この変化を再生時には検出しています。
経年変化があると、記録膜に形成した記録膜の形状がぼやけて、再生信号の質が悪くなります。
さらに、以下のような要因でも、記録マークがシャープに形成されず、ぼやけ(劣化が進み)が、一段と早く進みます。
・【記録時のレーザーパワー不足】
・【記録時レーザー波形制御不足】
・【記録膜欠陥】
・【ディスク自体の物理的なそりやブレの増加】
高品位のディスク記録への取組み
(1) アーカイブ用BD/DVD/CDライター「BDR-WX01DM」ライターでの取組み
・【記録時レーザー波形制御向上】
基幹部品である光ピックアップに、パイオニア業務用ライターにも採用されている高品質光ピックアップを採用し、安定した記録・再生を実現しています。
・【記録時、再生時のレーザーパワー維持】
高い塵埃耐久性を実現するダストシールド構造を採用しています。
(2) アーカイブ対応BD-Rディスク「IPS-BD11J03P」
・【劣化の少ない独自の記録膜】
独自の金属窒化物記録膜 Metal Ablative Recording Layer (MABL) を採用しています。溶融 (ablation) 方式で記録マーク形成するため、既存の相変化系材料より安定で、長期保存に適しています。
・【記録膜欠陥】、【ディスク自体の物理的なそりやブレの増加】への対応策
全てのディスクに対して欠陥・サーボ検査を行うなど、通常のBD-Rディスクよりも厳しい検査基準を用いて品質管理を徹底しています。寿命推定試験結果に基づいて設定した加速試験を全ロットに対して行い、合格したディスクのみ出荷することでデータ再生不良の発生確率を低減しています。
最終回まとめ
今シリーズでは、オフィスで簡単利用、10年以上記録保存可能な長寿命SSD、新方式のアーカイブBD-Rドライブ、ディスクを紹介しました。以下に、今後の用途・利用方法についていくつか提案いたします。皆さんの周りにも案外利用できる用途があるのではないでしょうか。
① これらのデバイス・媒体を利用することで、現在、注目されている電子帳簿保存法 電子取引の電子保存の義務化への対応だけでなく、建築図書などの法定保存も、簡単に安価に対応できます。また、WEB会議の録画や研修・教育資料の動画データも増えて来ているので、そのような用途のデータ保存にも適していると考えます。
② オフィス環境で、長期保存ができるようになったことは大きい
・専用設備を備えていなくても、自社オフィス内でも管理ができる。
・自社が他拠点展開している場合は、複数拠点にデバイス・媒体を保存することでも、BCP対策に供することができます。
・大規模な企業で、クラウドを利用している場合でも、BCP対策の再確認をお勧めします。クラウドで、BCP対策を行うと倍程度の費用がかかることもあります。そのような際は、重要データだけでもこれらデバイス・媒体にアーカイブすること検討してはいかがでしょうか。
・データを外部に出せない用途でも、その拠点内で空調設備コストを掛けることなく、電子データの長期保存が可能になります。
どうですか、皆さんの周りにも案外利用できる用途があるのではないでしょうか。この機会に見直してみませんか。