利用部門から見た契約書のライフサイクル

コラム
データ整理

コロナ感染症対策としてのテレワークの必要性の増大により、テレワークの阻害要因となった「押印」を廃止のため電子署名を使った電子契約の導入が進みました。デジタル化が進んだことで、契約書原案を電子ファイルとし、それを法律的な観点からチェックし、電子契約に繋げられるサービスも増えて来ています。今回は、契約書の利用部門から見たライフサイクルを俯瞰してみることで、そのライフサイクル上の課題について考えます。

1. 利用部門から見た契約書のライフサイクル

今回は、定型契約書ではなく、個別検討が必要な非定型契約書について考えます。

契約の最初のプロセスは、ビジネスプランの起案と契約書原案の作成です。ここから順に説明します。まとめると表1の通りになります。

(1) 起案
・契約書を利用する部門(利用部門)が、契約書を使ったビジネスプランの起案を行い、契約書原案を用意します。
補足)通常、契約書原案は契約先提示のものか、自社のひな型をベースとしたものになります。

(2) 交渉開始時審査
① 自社から契約書を契約先に提示する場合は、法務部等の審査部門に契約書原案の審査を受け、その審査結果やビジネスプランに関する有識者からの助言を取り入れて、提出用契約原案を作成します。
② 契約先からの契約原案を使う場合も、法務部等の審査部門からの審査結果やビジネスプランに関する有識者からの助言を取り入れて、契約修正要請事項を作成します。

(3) 交渉
・契約先と契約条件、契約書の文言について交渉します。
補足)法務部門等の支援等を得ながら進めます。

(4) 契約合意
・契約先と契約条件、契約書の内容の内容について合意に達したら、交渉経緯・結果を整理した上で、決裁文書を作成します。

(5) 決裁
・契約締結に対し、決裁者の決裁をもらいます。

(6) 契約締結
・契約書に両者が押印もしくは、電子署名を施します。

(7) 契約書の保管
・契約書を契約書の保管担当部署にて保管します。

(8) 契約書を利用する
・契約書の写しを利用部門で参照できるようにしておき、契約条件を遵守しつつビジネスに利用します。

(9) 解約
・当該契約がビジネスで用済となったら、契約の更新を停止、もしくは解約します。

(10) 契約書廃棄
・解約後、一定期間経過した後、契約書保管担当部署は、契約書を廃棄または削除します。
補足)民法の時効を根拠とする場合は、解約後、10年間以上は保管します。

図1 利用部門からみた契約書のライフサイクル

2. 新規ITサービスによる効率改善プロセス

電子契約サービス、契約文書の法的チェックサービスの利用が増えて来ています。

・電子契約サービスの利用により、テレワークの妨げとなっている押印を回避し、出社しなくても効率的に契約を締結できるようになりました。
・契約文書の法的チェックサービスの利用により、法務部門の負担を軽減でき、審査のスピードもアップしました。併せて、法的リスクの軽減効果も期待できます。

しかしながら、この2つのサービスを利用するだけで、契約書のライフサイクルにおける課題は解決するのでしょうか。

3. 契約締結前の課題

契約書の条文上の法的なリスクについては、法的チェックサービスを利用することで軽減が期待できます。しかし、 契約書を利用する部門としては、これとは別に、ビジネス上のリスクの低減、自社に有利な契約条件を獲得するという大きな課題があります。今後は、このような課題にも取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。

4. 契約締結がゴールではない

契約締結までいけば、後は、契約書の保管だけすればいいわけではありません。契約書を利用する部門として大切なことは、契約条件を遵守して、または、先方に遵守してもらうことです。よく見かけるケースとしては、契約を担当していた人がいる間は問題ないが、その人が他部署に移動または、退職した場合、職場として、契約条件を自己に都合がいいように思いこんでしまう、さらには、その契約の存在すら忘れてしまうこともあります。

対策としては、利用部門の人が、常に、利用している契約書を参照できるようにし、さらに、 定期的に契約条件を再確認することが必要なのではないでしょうか。

5. まとめ

契約書の利用部門から見たライフサイクル上の課題として、以下の2点が挙げられます。対応はできていますか?まだの組織は、検討頂ければと思います。

(1) 契約締結前
ビジネスリスクの低減、有利な契約条件を獲得するための社内の仕掛けづくり

(2) 契約締結後
契約書利用部門が、自部門で利用している契約、その契約条件を定期的に確認する仕掛けづくり

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