【後編】紙文書の電子化 正しいアプローチしていますか?~消えた年金問題を思い出せ、漏らさず、忠実に、正確に分類する~

コラム
ビジネス

 社内に溢れる紙文書について、前編では、何を電子化すればよいのかについて説明しました。後編では、電子化する際の留意点と対処方法について検討します。電子化の際の重要な留意点は「対象の紙文書を漏らさず」、「元の紙文書に忠実にデジタル化して」、「後で検索できるように正確に分類する」ことです。「紙文書の電子化は、そんなに難しいことはなく、スキャナーか複合機で、紙文書をスキャニングしてPDFにするだけなのでは。誰でもできる作業のはず。」と思ってはいませんか。もし、そのようなに思っていらっしゃったら、「消えた年金問題」を思い出してみてください。実は、紙文書を電子化する際は細心の注意が必要です。

(前編の続き)

1.「消えた年金問題」 を思い出せ

 「紙文書の電子化」なんて難しいことはない、スキャナーか複合機で、紙文書をスキャニングしてPDFにするだけ。誰でもできる単純作業と思ってはいませんか。単純作業の積み重ねにこそ難しさが潜んでいます。
 2007年に発覚した「消えた年金問題」では、国民の年金データ記録の一部が失われてしまいました。年金の支払い記録を無くされた人は、復旧するためには自分で証人を集めて申請をするしかありませんでした。古い年金記録が失われ、証人を集められず泣き寝入りするしかなかった人も多数発生しました。
 それでは、技術的には何が問題だったのでしょうか、整理してみましょう。問題は、「紙台帳の年金記録」をコンピュータのデータベースに転記入力する際に漏らしたり、変換ミスをしたことです。「紙台帳」の多くを「マイクロフィルム」に変換して保存したケースも多くありました。
 そこで起きた問題は、
(1)マイクロフィルムへの変換対象とするべき紙台帳を漏らした。
(2)マイクロフィルムへの変換対象としたが、変換作業時に漏らした。
(3)マイクロフィルム変換対象とし、変換作業したが、作業ミスでデータが欠けたり、判読できな
   かった。
 さらに、「紙台帳」「マイクロフィルム台帳」からコンピュータのデータベースに入力する際に起きた問題は、
(4)対象データを漏らした。
(5)入力データを間違えて転記した。正確でなかった。
(6)最悪なのは、このようなミスの多い作業だったにもかかわらず原本を捨ててしまった。
 この作業も、作業自体は単純作業の積み重ねです。社会保険庁のトップ層の方はきっと、単純作業と気を抜いた監視や作業指示になっていたのだと思います。
 「紙文書の電子化」と抽象的に考えているとなかなか思考が進みませんが、このように身近なことに置き換えると、その方法について改めて考えないといけない、と思われるはずです。一度、自分の年金記録だと思って考えてみませんか。

2.「紙文書の電子化」の重要な留意点

 電子化文書特有の問題として、後で検索できるようにインデックスを付けたり、ファイル名を付けたり、フォルダ分けするなどの分類を行います。この「消えた年金問題」からの技術的な「紙文書の電子化」への反省点は、「紙文書の電子化」における重要な留意点でもあります。
(1)漏らさない
  ・電子化の対象として漏らさない、電子化作業の中で漏らさないこと。
   紙文書の場合は、複数枚ある場合もあるので、シート抜けさせないこと。
(2)忠実に
  ・電子化した内容が元の紙文書と同程度に読めること、傾いてデータが欠けることがないこと。
(3)正確に分類する
  ・電子化後の利用のための分類を行うこと。

3.基本的な「紙文書の電子化プロセス」

 それでは対応策のポイントについて説明する前に、JIS Z 6016:2015「紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス」で規定されている基本的な電子化文書の登録までのプロセスについて紹介します。それらをまとめて、電子化プロセスの全体フローとして、図1に示します。
(1)電子化プロセス管理規程の策定
  ・電子化の目的の明確化、組織・担当の割り当て、目標品質など必要な要件の洗い出しを行い、
   計画を立案し、計画を策定する。
(2)電子化のための準備
  ・スキャニングを効率的に行えるように、ホッチキス、クリップ等を外す。
  ・紙文書の汚損、破損や紙折れなどをチェックする。
(3)スキャニング
  ・紙文書をスキャニングして一時フォルダに格納する。
(4)索引の入力
  ・文書毎に検索用の索引(インデックス)やメタデータを登録する。
(5)検証
  ・一時フォルダ内のPDF等の電子化文書を実際に開いて、その品質を確認する。
  ・主な検査項目は“画像欠損、傾き、濃度、ごみ・しわ、すじ、色再現性、モアレ、カラー線色
   ずれ”である。
(6)電子署名及びタイムスタンプの付与
  ・必要に応じ、電子化文書に電子署名、タイムスタンプを付与する。
(7)システム登録
  ・ファイルサーバー、システム等に登録する。

4.重要な留意点への対応方法

 重要な留意点への対応方法を以下に説明するとともに、図2の電子化プロセス上の重要留意点の対策ポイントを示します。
(1)漏らさない
  ①対象文書として漏らさない対応方策
  「電子化プロセス管理規程の策定」の中で、対象文書を登録対象台帳に登録することを規程して
  います。「電子化の準備作業」の前に、規程に基づき登録対象台帳を作成し、対象文書が発生す
  る都度、台帳に登録します。この登録対象台帳を定期的に確認し、対象文書登録漏れを防ぎま
  す。システム登録完了で、登録対象台帳の対象文書に完了を記入します。
  ②電子化作業の中で漏らさない対応策
  登録対象台帳に作業着手とシステム登録完了欄を設け、電子化作業中での漏れを発見します。
  ③ページ抜けを防ぐ対応策
  「検証」プロセスの検査項目に、ページ抜けのチェック項目を入れます。実際には、トータル枚
  数の確認や、紙文書へのページ付与等のいろいろな工夫も必要です。
(2)忠実に
  ①電子化文書が紙文書と同等に読めるための対応策
  必ず、「検証」プロセスを設けJISを参考に確認を行います。人手作業になるので、複数人によ
  るダブルチェックが必要です。ページ折れや、傾きにも注意します。自部門だけでなくお客様に
  もエビデンスとして提示する可能性がある場合は、その判定基準を高く設定する必要がありま
  す。
(3)正確に分類する。
  ①電子化後の利用のための分類をおこなう方策
  ・必ず、「索引入力」プロセスに相当する工程を設けます。JISでは、具体的な例として、「作
  業日時」「作業者」「監督者」が上がっていますが、利用の立場からは、必要なキーワードを入
  力することが必要です。
  ・各文書に必要なキーワードは、登録対象により異なりますが、紙文書が発生した年月と台帳登
  録番号は必ず、入力するのものとします。

5.作業の信頼性を高めるために

 ICTを利用して人手作業をできるだけ減らしていくことは言うまでもありませんが、電子化作業は、どうしても人手作業となってしまいます。そこで実際の作業にあたっては愚直に作業手順書を作成し、その手順で訓練し、その手順通りに実施する。検証プロセスでも2人以上で、丁寧にチェックすることが必要です。
 一番避けるべきは、手の空いている人が適当に作業を行うことです。登録する紙文書が多拠店の場合や、同じ拠店でも多くの職場で発生する場合は分散入力という形態になります。作業の信頼性からすると、分散入力ではなく、集中入力の方が優れています。分散する場合でもその入力地点を絞る方が作業者の熟練度があがり、ミスは減ります。また、作業の所要時間よりも正確性を優先し、ダブルチェックでの作業ミスを“0”にする必要があります。
 社内で入力作業の信頼性を高めるだけの時間、人材が得られない場合は、外部の専門業者の活用も有効です。

まとめ

 後編では、電子化の重要な留意事項として、「対象の紙文書を漏らさず」、「元の紙文書に忠実にデジタル化して」、「後で検索できるように正確に分類する」をあげ、具体的な対応方策を示しました。電子化の際は、「消えた年金問題」を思い出して頂き、手の空いた人が適当に行うことなく、訓練した人が手順に基づいて愚直に作業することが必要です。
 そのような体制が取れない場合は、外部の専門業者の利用も考えましょう。

関連記事