【後編】広がっていく“衛星データ”の利活用。その時に重要となるのは?

インタビュー
データ活用

 前編では、衛星データの利用を普及させるためのプラットフォーム『Tellus(テルース)』の概要やその役割、また衛星データにはどのようなものがあり、現状どのように使用されているかを確認しました。後編では、今のTellusの課題や衛星データの将来について語っていただきます。

前編続き)

4.従来の衛星データの課題を乗り越えた先にある、ユーザー要求をつかみたい

藤田:従来の衛星データの課題は何だったのでしょうか。

山崎さん:一つ目の課題としては、大量のデータがあること。さらにデータを手に入れても、そのままでは利用できる状態には処理されていないので、処理のリクエストがオンデマンドベースで時間がかかってしまう。なので、ユーザーが欲しいデータを集めるにはそれぞれのプロバイダに訪問してリクエストし、何日か待って入手するしかありませんでした。このように、データを使えるまでに時間がかかってしまうということが一つ。二つ目の課題としては、値段が高いこと。解像度が高いのは有償が多く、例えばかつては1シーンあたり100万円ほどかかってします。それではスタートアップの企業は買えないですよね。そして三つ目の課題は、あまり流通していないデータなので、解析するには専用のツールが必要であったこと。その専用のツールも百万単位とライセンスフィーが高いんです。こういった課題を取っ払おうというのがTellusのコンセプトです。

 今はビッグデータの時代で、AIや機械学習と衛星データを組み合わせてビジネスを始めようとする企業も多く出始めています。こういったときに、例えば1シーン10万円のデータを10万シーン利用しようとすると単純計算で100億円くらいはかかってしまう。ビジネスになるか分からない状況で、スタートアップの企業がいきなり100億円を投資するわけにはいきません。少なくとも、ログインさえしてくれれば、今あるデータを使ってビジネスになるかどうかの検討をすることができます。そこは今回りだしているような気がします。

藤田:従来の衛星データの課題を解決するのに苦労した点はありますでしょうか。

山崎さん:ユーザーの視点といいながら、ビジネスで利用しているユーザーがまだあまりいないので、ユーザー要求が事前にみえない点は苦労します。衛星データを公開して、それをビジネスとして使うにはそれなりの時間がかかるのでタイムラグがあります。科学者が使っていたような衛星データを公開しているので、一般のビジネスユーザーさんがまだしっくり来ていない部分があります。

牟田さん:衛星データはハードルが高そう、自分には関係なさそうと思われてしまう部分があるので、いかにそこの敷居を下げて利用を広げていくかが課題で、苦労する点だと思います。これまで宇宙や衛星とかに関わりがなかった人に、いかに自分ゴトとして衛星データを扱ってもらうか、のフックが何かというところは模索しています。
 そこで、宙畑の施策の一つでもありますが、データコンテストやラーニングイベントをTellusでは大事にしています。ただモノを用意しました、だけではなく、それをどう使ったらいいかの提案まで行います。例えば、機械学習とクロスしたイベントを行うと、衛星データのことは知らないけれども、機械学習の画像解析に興味がある人に届くかもしれませんよね。そういう色々なフックで皆さんに届くといいなと思っています。

藤田:データコンテストは例えばどういったことをやっているのでしょうか。

牟田さん:データのアルゴリズムのコンペをやっていらっしゃる会社さんと組んで、一回目は電波を使った観測であるSARデータから、機械学習で土砂災害があった場所を検出しようということをやりました。そのときは熊本の地震を題材にし、その時期の衛星データを題材に機械学習をさせ、SARデータから読み取った土砂災害の場所と、国交省が調べた土砂災害の場所が一致しているかどうかを競いました。

 二回目は、高解像度の光学衛星ASNARO-1を使って、船舶を検出するというテーマをやりました。海の写真を撮り、どこが船か、というのをタグ付けする機械学習のコンペをやりました。これができると、海の写真を使って、港の船の出入りがすぐ分かるようになります。

 三回目は海氷の検知をテーマにし、ここでは、衛星データを使ってどこが海氷でどこが普通の海面か、をセグメンテーションする機械学習のコンペをやりました。

『宙畑』記事「コンペ受賞者を発表!「Tellus 宇宙データビジネスフォーラム vol.2」レポート~」から引用

 こうなってくると宇宙産業に関わる人だけではなくて、機械学習を扱ったデータサイエンティストの方々が、普通の画像データ識別のコンペの一環として衛星データを触るようになります。もちろん、普段データを扱った仕事をしていない個人でも、興味を持った人は誰でも参加することができるので、そういった一般の人にも衛星データの利用を普及することができます。こういうのが我々の狙いです。
 面白いと思ってくれる人がたくさん集まり、その結果衛星データが普及する、インターネットのように衛星データの利用が当たり前になる世界を目指したいと思います。

山崎さん:特に思うのは、一緒にサービスを作っていきたい、ということ。Tellusのデータを使って一緒にサービスを作りたいです。そのような企業が多くなれば、いずれそれが産業になります。
 現状のTellusは、無償でちょっと気軽に使えるプラットフォームですが、これからも進化し、しっかりビジネスをやる場を設定しているので、そこにお客さんが入ってきてくれることを期待しています。

5.ますます広がる衛星データの利活用と今後注意してほしいこと

藤田:今後衛星データはどのような分野で多く活用されていきますでしょうか。

山崎さん:伝統的には、一次産業、農業とか漁業とかですかね。特に日本は多いです。一方海外は、金融や不動産など、お金が流れるところに、マーケティング用途で使われつつありますね。日本人はリテラシーが金融に弱いところがあるので、なかなかファーストチョイスで金融や不動産というのは少ないです。海外はお金を稼ぐことに貪欲なので、最初に投資したときに回収できるのはどこかなと考えた時に、ファイナンスや不動産にたどり着くのだと思います。例えば、大規模量販店の駐車場の車の数をみて、どれくらいの売り上げになっているかを調べ、公開する前に投資会社に売る、などのビジネスがあります。
 日本も今後、金融や不動産に衛星データを使っていく余地はあるでしょうね。あと、衛星はマクロの情報なので、日本のように陸地が狭く、地上センサー大国なので直接的な需要が少なく、すぐに飽和状態になってしまう。そうすると次は外に出ていく。アメリカ大陸のように陸地が広いと衛星はすごく使えるので、海外進出する日本企業に使ってもらえるツールとして発展していくのが次のステップだと思います。
 海外進出した企業が衛星データを使ったビジネスを海外で展開すると、今度はそこのローカル企業が衛星データを使うことになる。そうすると次のステップはその国のお客さんを相手にすることになる。こうやって衛星データの利用が国を超えて普及していってくれればと思います。

藤田:これから衛星データの種類はどんどん増えていくのでしょうか。そうなったときの課題はありますでしょうか。

山崎さん:衛星の数が増えていけば、時間の観測頻度は増えるので、これから数は増えていくでしょうね。衛星は地球を回っているので、例えば1基で同じ場所を撮影するのは数十日に1回とかになります。そこが政府系の衛星の欠点ですね。そこを解決しようとしているのが民間のベンチャーさんです。宇宙中に100基とか200基飛ばすと1日に複数回の観測をすることができます。

牟田さん:機械学習が一つのテーマだと思います。それだけ衛星データが増えてしまうので、人間の頭で考えられる量ではありません。そうなってきたときに、今までは論理物理学的に考えて、これは、衛星データでこういうふうにでるからこういうふうに見えるようね、というアプローチでしたが、それだけではなく、画像があふれ始めると、大量の画像を機械学習で学習させることによって今まで考えられなかったコトも考えられるようになるのかなと思っています。そういった観点でも今後期待できるところだなと感じています。

山崎さん:ただ、そのように使う衛星データも増えた時、衛星データから得られた情報も同時に増加します。そうなった時に、得られた情報をどのように管理し、保存していくかはデータホルダーやユーザーの関心となります。得られた貴重な情報を野放しにせず、適切に管理するよう気を付けないといけません。

まとめ

これまであまり身近に感じていなかった衛星データが、実はこんなにもすぐ活用できる場所にある。今後衛星は、生活に欠かせない情報を提供してくれるようになるでしょう。
 衛星データのように、ビッグデータ時代には、そばにたくさんのデータが転がっています。このときに注意しないといけないこと。それは、得た情報・データをしっかり管理すること。今回のテーマであった衛星データの利活用もますます広がっていくでしょう。しかし同時に、衛星データから得られた貴重な情報の、その後の管理も大事で、今回インタビューさせていただいたさくらインターネットのお二人も課題点の一つと触れていました。それはその通りで、せっかく貴重な情報を得られたのにそれを紛失してしまったり、流失してしまったりしたら、衛星データが無意味になってしまいます。
 溢れる情報から適した情報を読み取り、得られたデータをしっかり管理していくこと。「利活用+安全・安心なデータ管理」のバランスが今後重要になっていきます。

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