【寄稿】政府が押印不要の見解と電子的な代替手段を提案~内閣府・法務省・経産省が連名で判例に準ずる見解を表明~
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テレワークの障害と指摘されている民間企業での「押印」慣行について、その見直しと電子文書で押印に代替するための要件について、政府から統一見解が表明されました。本来、法律や規則の運用は裁判結果による判例の積み重ねで固まってくるものですが、押印に代替する電子的な証明手段について一般的な判例が見当たらないため、関係する行政機関※1である内閣府・法務省・経産省が連名で押印不要の見解とその代替手段を提案したもので、判例に準ずる重要な行政見解と言えるでしょう。
※1内閣府;各省庁間に係るテーマについて総合調整する。今回のテーマでは法務省や経産省の他、内閣官房や財務省・国税庁などとも意見調整したものと思われる。
法務省;民法や民事訴訟法を主管し、判例に準ずる解釈として「法務省見解」を表明。
経産省;電子署名法・電子委任状促進法を主管し、企業活動の活性化を図る。
2020年6月19日に発表された「押印についてのQ&A」全文はわずか5頁ですので一読して頂くとして、重要なポイントは次の2点に整理できると思います。
民間企業で重要文書への「押印」慣行が連綿と続いている理由の一つが、1964年(56年も昔!)の文書成立の真正性を巡る最高裁判決でした。この判決は文書管理の専門家の間では「二段の推定」と呼ばれるものです。
次に押印に替わる電子文書の真正性を証明する手段について、今回の政府統一見解では、従来の電子署名方式だけでなく、企業実務を考慮して、電子メールを用いた具体的な代替方法が提案されています。これが今回の政府統一見解の画期的なポイントです。今回の政府見解「押印についてのQ&A」のポイント
1.押印慣行の根拠となった最高裁判例は、絶対ではないことを指摘
①押印文書は、通常は押印が本人の意思に基づいて行われたという事実を証明する。
②印影と作成名義人の印章が(印鑑証明書などで)一致することが証明されれば、その印影に係る私
文書は作成名義人の意思に基づき作成されたことが推定される。
「提出文書には押印する、特に重要な契約書には実印+印鑑証明で真正性を担保する」日本企業の押印慣行は、この判決が影響しているに違いありません。
この最高裁判決に対して、今回の政府統一見解では、以下3点の問題点を指摘しています。
①文書の真正性が推定である以上、印章の盗用や冒用(無断利用)の可能性などで反証された場合に
は、その推定は破られる可能性があること。
②印影と作成名義人の印章が一致することの立証は、「実印」の場合には印鑑証明書を得ることで
比較的容易であるが、「認印」は立証が困難であり意味は少ない。
③3Dプリンターなどの進歩で印章の模倣もより容易になっている。
行政が最高裁の判決「二段の推定」について、完全ではなく問題があると注意喚起したことは、極めて注目されます。
2.電子文書の真正性を証明する方法について―行政側からの提案
①継続的な取引関係がある場合
取引先とのメールについて、メールアドレス・本文及び日時等、送受信記録を保存する。
請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような保存方法のみでも、文書の成立の真
正が認められる重要な情報になると考えられる。
②新規に取引関係に入る場合
a 契約締結前の本人確認情報(氏名・住所及びその根拠となる運転免許証等)の記録・保存
b 本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでのPDF送付)の記録・保存
c 文書や契約の成立過程(メールやSNS上のやり取り)の保存
以上の①②については、裁判で文書成立の真正性が争点になった場合でも、下記の方法で立証することが容易になる。
a メールによって契約を電子締結することを事前に合意した当該合意記録の保存
b PDF文書にパスワードを設定
c PDF文書をメール添付で送付する際は、パスワードを携帯電話など別経路で伝達
d 取引相手先に加え、自社内の上司や法務部長、取締役など決裁者も宛先に含める
e PDFを含む送信メール及びその送受信記録の長期保存
③電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存で
きるサービスを含む)
電子契約など電子文書の真正性が争点となった裁判の判例が見当たらないなかで、この政府の統一見解は判例に準ずる行政サイドからの提案として、安全で生産性の高い電子企業社会を実現するために活かしてゆくべき、重要な提案だと思います。
なお取引に関する電子メールは、PDF添付文書を含めて税法(電子帳簿保存法)で7年間~10年間の保存が義務付けられています。これに準じた電子メールの運用管理については、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)からガイドラインが提案されていますので併せてご参考下さい。