磁気テープは昔のものではない!長期保管に適している磁気テープの正体とは!?(後編)

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今回は、テープストレージのプロフェッショナルであるJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)テープストレージ専門委員会の委員、そして日本アイ・ビー・エム株式会社 東京ラボラトリー システムズ開発にてご活躍の板垣浩さんにお話しを伺いました。

前編ではテープストレージの歴史、テープストレージとは何か、データの長期保管に適した磁気テープの運用についてお聞きしました。 後編では、現在におけるテープストレージの使われ方や、テープストレージの今後について教えていただきます。

前編の続き)

5.日本における磁気テープの認知度について

藤田:次に、日本における磁気テープの現状についてお伺いしたいと思います。
普段、私たちがお客さまに磁気テープについてお話すると「え、まだそのようなものがあるのですか。昔のものだと思っていました」というように、一歩引く反応をされるお客様も多い印象を受けます。実際に、テープは昔のものと感じている人は多いでしょうか。

板垣氏:確かに、まだ使っているの?という反応をする方はまだ多いです。そういった意味でテープストレージの知名度はまだ低いと言えますね。一方で、今はクラウドの方が注目されていますし、話題にもなっているので、クラウドをご存知の方が圧倒的に多いと思います。

したがって、先ほども述べましたが、JEITAの啓発活動では、テープストレージは昔のものではなく、今も進化し続けていることを認知してもらうことが大きな目的の一つでもあります。 それとあまり知られてはいないのですが、実はクラウド事業者もテープストレージを使用しています。クラウド事業者はお客様からたくさんのデータを預かりますよね。そのデータはテープストレージに格納されていることが多いです。

藤田:なるほど。クラウド事業者も実はテープストレージを使っているのですね。そのような事例があることはあまり知られていないと思います。
ではなぜ、日本はまだ知名度が低いのでしょうか。原因はなんでしょうか。

板垣氏:磁気テープは、知っている人は知っている、という記録メディアです。しかしまだ知らない方が多いのは、個人のユーザーの方が触れる機会が少なくなってきていることが一つの理由かと思います。

ちなみに一昔前は、バックアップ用のメディアといえば磁気テープでした。もちろん、LTO規格の前のテープで、サーバーにはテープドライブがついていて、それで定期的にバックアップをするというオペレーションが行われていました。ですので、業界の方であれば、磁気テープについても多少の経験はあります。そのときに、トラブルがあったりして磁気テープは嫌だな、という悪い印象をお持ちになった方がいらっしゃるかもしれません。しかし今はテープストレージ自体が進化しているので、そんなことは全くないですけどね。

藤田:そうですね。そのように個人のユーザーが触れる機会が少なくなってきているということは理由の一つですね。そのことに加えて、データ管理の重要性をそこまで感じられていない企業が多いということも理由の一つではないでしょうか。

例えば、データはとりあえずクラウド、外付けHDDなどに保存しておくという企業もあるかもしれません。データを失うリスクを認知はしているけれど、データ管理まで手が回らない、もしくは、データを失うリスクをそもそも認知していない現状もあるかもしれません。その辺りについて板垣さんはどのようにお考えでしょうか。

板垣氏:前から言われているのは、テープストレージは後ろ向きの目的で使われていたことが多いということです。後ろ向きというのは、何かトラブルがあったときのために使うとか、アーカイブにおいても何か訴えられた時のための証拠としてとっておくなど、“何かあったときのためのデータ”という印象があったと思います。損害保険と同じような考え方で、費用を節約するためにそこを絞ってしまおうという考えになってしまったかもしれません。

しかし最近は機械学習といったような、データを分析して新たな知見を得る、そういう流れがあると思います。どんなに賢いAIがあっても、分析するためにはデータが必要です。そういう観点から、今の時代はデータをとっておかないと後々それを有効に使えない、という考えが出てきていると思います。

したがって、後ろ向き(何かのためにとっておく)ではなく、将来、データを分析して新しい知見を得るための”宝”として、将来のお金のために、今、データをとっておくことが重要です。そういう考え方になっていただけると、データを保存する価値が伝わるのではないかなと思います。

藤田:なるほど。ではテープストレージは、どういう業界、どういう場面で特にニーズがありそうでしょうか。やはりデータ分析をする企業などでしょうか。

板垣氏:現状では、たくさんのデータを扱い、保管し、何かの知見を得る、いわゆる研究機関のようなところに使っていただいています。世界に目を向けてみると、ゲノム関係、医療関係も多いです。遺伝子情報をためておかないといけないですからね。それと、監視カメラの映像を保管するために使われるお客様もいます。 また製造業ですと、製造ラインの記録動画、建築業ですと法律で保管しておかないといけないデータが様々あり、そういうデータをテープストレージで管理していると思います。

今後は様々な業界で使われるようになればと思います。そのためには今は、展示会やセミナー等を実施し、地道に広めていくしかないですね。

6.磁気テープで保管を行う目的

藤田:データ保管は法律で義務付けられている場合もあるようですが、事業拡大や競争力強化目的で保管データを将来活用したいという狙いもあると聞いています。今後、磁気テープによるデータの保管は拡大すると思いますでしょうか。

板垣氏:拡大していく余地はあると思います。先ほども述べましたが、データを貯めておかないと将来使えないよ、という話があります。また、どんどん機械学習も進化しているので、今の学習アルゴリズムでは見つけられないものも来年には見つかるかもしれません。ですので、せっかくとっておいたデータを捨てちゃうのはもったいない、という考え方になるのではないでしょうか。
そうなると、これから多くのデータを貯めていかないといけなくなります。そのときに、じゃぁどこに置いておく?となると、やはりコストの低いテープストレージは一つの選択肢になると思います。

藤田:そうですね。では今、実際にテープストレージを使用しているところは、どのような目的で、他のメディアではなくテープストレージを使われていることが多いのでしょうか。

板垣氏:様々な理由があると思いますが、一番の理由は値段ではないかと思います。もちろんお客様によっては、災害対策として、2本のテープに同じデータを書き、1本は別のところに保管するという使い方をしているお客様もいます。またデータ自体を自社で管理したいという理由でクラウドにデータをおかないというお客様もいますが、自社で大量のデータを管理する場合にも、コスト面からテープストレージを選んでいただいているのかと思います。

藤田:やはり低コストでできるというのは大きいメリットなのですね。

板垣氏:そうですね。そのようなメリットを活かし、これまでのバックアップ用途からアーカイブ用途として今後需要が伸びていくでしょう。”念のため”ではなく”将来のため”のアーカイブとして使用する組織が増えてほしいと思います。

7.磁気テープでのアーカイブの未来、今後の動向について

藤田:特に、日本IBM様はLTO標準化やLTFS開発など大きく貢献されてきました。今後の計画等ございましたら教えて頂けると幸いです。

板垣氏:LTO規格に関しまして、LTOコンソーシアムというところが決めている将来のロードマップが発表されています。現在の最新のテープ製品はLTO8世代ですが、LTO9世代の製品が今後発表されることになります。その先はLTO12世代までの規格が決められています。目標としては、LTO12世代までに、カートリッジ一巻に192テラバイトのデータ保管を可能にすることを目指しています。

現在のペースでは、世代が上がるタイミングは3年に1回くらいなので、LTO12世代は10年以上先になってしまうかもしれませんが、技術は今より飛躍的に進歩しているでしょう。

研究室レベルでは、さらに最先端の技術を使ってどこまでデータを書けるのか、を実証実験しています。現在の研究では、カートリッジ一巻あたり330テラバイト相当まで成功しています。したがって、技術的にはLTO12世代の目標が実現可能であると分かっているのです。私たち開発部門の仕事としては、研究室レベルの技術をいかに製品に使えるようにするか、です。今後もここに力を入れて頑張らないといけません。

藤田:今後、データをアーカイブするうえで検討しないといけない大事なポイントなどありますでしょうか。

板垣氏:データをアーカイブしたいからといって、全てのデータをテープストレージに書いておけば問題ない、ということもありません。データの種類によっては、テープストレージでない保管方法が適している場合もあります。したがって、様々な選択肢が出てくるこれからのアーカイブは、様々なストレージを使い分けていくのがかしこいアーカイブなのだと思います。

例えば、頻繁に利用するデータであれば、インターネットですぐにアクセスできるところに保存されていた方が便利です。一方で、大容量のデータで、かつ頻繁にはアクセスする必要のないデータには、長期間、多くのデータを低価格で保管できるテープストレージが適しています。また、ネットワークから切り離されて保管されるので、セキュリティ面でも安心です。

このように考えると、自分たちが持っているデータに対して、そのデータをどのように使うか、またその用途に合ったストレージはどれがいいのか、を適切に選んでいくことがポイントとなります。

藤田:なるほど、アーカイブするデータはどのようなものなのか、をまず整理しないといけないですね。ただ、使用頻度は低く、かつ長期間保管したいデータがあるけれども、なかなかテープストレージに踏み込めない、という方もいらっしゃると思います。そういう方にとって、何がハードルとなっていることが多いのでしょうか。

板垣氏:例えば、昔のテープストレージでの苦い経験をお持ちで、そのイメージがあるので、やはりテープは嫌です、という声を聞くことはあります。そのような方には、今の磁気テープは技術的にはとても進歩していて、昔の磁気テープとは全く性能が違います、と説明します。 苦い経験というのは、例えばカビが発生するとか、時々巻き直さないといけないという手間などです。今はそういうのはないです。ただ、マイグレーションはテープストレージに限らずどのストレージでも必要です。作業としては大変だと思ってしまうかもしれませんが、将来、今のデータを活かすことと、マイグレーションの作業の手間を天秤にかけたとき、データを活かせる価値の方が重いはずです。

8.今後の展望について

藤田:今後、力を入れていきたいことや展望などはありますでしょうか。

板垣氏:テープストレージは大変なのかな?と構えているお客様に対して、そうではなくて、テープストレージを気軽に使っていただけるような仕組みを提供していきたいと思います。 また、アーカイブ事業をされている皆さまには、テープストレージの利点をもっと知っていただき、より多くのお客様にその方法を認知していただけるようになればよいなと思っています。

藤田:そうですね。今はビッグデータの時代に突入しました。将来、データを活かすための前向きなアーカイブのために、テープストレージの認知が広がるといいですね。 この度は貴重なお時間をありがとうございました。

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