磁気テープは昔のものではない!長期保管に適している磁気テープの正体とは!?(前編)

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磁気テープと聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

お若い方であれば、磁気テープはかつて使われていた記録メディアと考える方もいらっしゃるでしょうし、あるいは磁気テープもカセットテープも知らないという方もいるでしょう。

しかし、実は磁気テープは、今も世界的に広く使われている記録メディアです。大容量データの長期保存用として磁気テープが適していると言われています。なぜ、そう言われるのでしょうか。また海外に比べて日本の状況には違いがあるのでしょうか。そして今後は、磁気テープの機能や利用は拡大していくのでしょうか。

今回は、磁気テープを用いたコンピューター用テープストレージの第一線で活躍されている、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)テープストレージ専門委員会の委員として活動、日本アイ・ビー・エム株式会社 東京ラボラトリー システムズ開発の板垣浩さんにお話を伺いました。

1.テープストレージの始まり

藤田:まず初めに、板垣さんご自身のことについて少し教えてください。日本IBMでのお仕事やJEITAでのご活躍内容などお伺いできればと思います。

板垣氏:入社当時からストレージの部門に配属されました。最初は光磁気ディスクドライブの製造現場で、工場で製品製造のサポートをする技術者として働いていました。その頃日本では、テープストレージ関係の開発はなかったのですが、その後1998年頃から、日本でLTO(Linear Tape Open)という新しい規格のテープストレージとして磁気テープのデータを読み書きするテープドライブの開発が始まりまして、それに参加することになりました。そこからテープストレージの世界に入りました。

最初は、LTO規格第一世代のテープドライブの開発を行いました。具体的には、ファームウェアといって、テープドライブの中で動いているプログラムの開発から、テープストレージの仕事が始まりました。それから約10年間、続く世代のLTOドライブや、弊社独自規格である、エンタープライズテープドライブと呼ばれている、より性能が高いドライブの開発などを行っていました。

テープドライブの開発を始めて10年ほど経ったのち、次にテープドライブをより便利に使っていただこうということで、テープドライブでファイルシステムを扱うことを可能とする機能がありますが、それを製品化する業務につきました。それが今、ファイルシステム用のフォーマットの名前でもある、LTFS(Linear Tape File System)と呼ばれているものです。そして現在は、LTFSフォーマットでデータを記録するソフトウェアの開発をしており、IBM Spectrum Archive※1という製品の開発に従事しております。

JEITAテープストレージ専門委員会自体はそもそも、磁気記録のための委員会でした。したがって当初は、磁気テープの他にフロッピーディスクの規格なども取り扱っていたそうです。その後、当時弊社がテープドライブの開発を始めていたということでお誘いを受けました。私が委員会に参加してからもう10年以上経っておりますね。 現在はテープストレージの啓発活動などを行っています。

藤田:啓発活動の一環として、セミナー等もやられているのでしょうか。

板垣氏:JEITAテープストレージ専門委員会の中にワーキンググループがありまして、展示会などに出展しています。そこではテープストレージの展示はもちろんのこと、セミナーや講演会も行っております。

藤田:広く啓発できる場として展示会はとてもいいですね。板垣さんご自身は、JEITAテープストレージ専門委員会ではどのような活動をされているのでしょうか。

板垣氏:私は現在、磁気テープを用いてデータを長期保存する方法を定めたJIS規格を、より多くの方に知っていただくための資料作りなどをしているワーキンググループに参加しています。その前は、データの長期保存について、またテープの暗号化についての説明資料を作成したりしていました。

※1IBM、および IBM Spectrum Archiveは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標です。

2.そもそも磁気テープって?

藤田:テープというと、普通のカセットテープを思い浮かべる人が多いと思うのですが、長期保存用の磁気テープとはどういうものでしょうか。両者の違いは何でしょうか。

板垣氏:磁気テープというのは、60年以上の歴史のあるストレージです。したがって、昔の技術なのではないか、少し古臭いイメージがある、などと思われる方が多いと思います。しかし、テープストレージ自体は、年々進化しています。最近では2~3年に1度、新しい世代の製品が発表されています。その世代が上がる度に、容量が倍になっています。したがって、昔からある技術なのですが、昔の技術のままでは決してなく、どんどん新しい技術が導入されており、どんどん新しいテープストレージができています。
なので普通のカセットテープのようなテープと比べて記憶容量が大きいのはもちろんのこと、そもそもテープフィルムや磁性体等の性能も上がらないとその容量は増やせないので、そのようなところの技術も進化しています。

3.なぜ、長期保存には磁気テープが適しているのか

藤田:なぜ、磁気テープは大容量・長期間の保管に向いているのでしょうか。他のツールではなく、磁気テープを使うメリットについて教えてください。

板垣氏:まず、磁気テープの一番の特徴としては、データ量あたりの単価が安いこと。そして、TCO(トータルコストオーナーシップ)が安く抑えられることです。つまり、磁気テープは可搬性があり持ち歩ける記録メディアですが、そこから言えるのは、使っていないときは電気を使わないということ。たくさんのデータを保存したとしても、棚に置いておくだけでよいので電気代はかかりません。読み書きして使うときだけドライブに入れて電気を使うくらいです。結果的に総額を抑えられます。
また、セキュリティの面でも安全安心です。常にオンラインで接続されているストレージですと、少し前に話題になったランサムウェアやウィルスなど、サイバー攻撃を受ける可能性があります。しかし、可搬性のある磁気テープは、ネットワークから切り離して棚に保存することができるので、誰もネットワークからアクセスできません。そういう特徴を我々はエアーギャップと呼んでいます。ネットワークからアクセスできないので、悪いソフトウェアがあっても、絶対に変更できません。 以上をまとめますと、コスパが良い、そしてセキュリティ面で安全安心。そういう特徴があり、大量のデータを長期に保管するために適している記録メディアとして選ばれています。

藤田:なるほど。ちなみに耐久性はどうでしょうか。

板垣氏:耐久性については、JEITAテープストレージ専門委員会で試験しています。そもそもテープストレージ専門委員会は、日本のテープ関係のメーカーやシステム会社が集まっている委員会なので、一つのベンダーに偏らず情報を発信しています。そのJEITAで磁気テープの耐久試験を行いました。そこで加速試験を実施し、磁気テープのデータの減衰を計った結果、少なくとも20年は確実に持つという結果が出ました。最近ですとLTO7世代の磁気テープのテストも実施し、その結果、保管環境(25℃)では、磁気的な性能においては、少なくとも50年以上の寿命推定が検証できました※2

藤田:そういった耐久性の部分も技術が進歩しているのですね。

板垣氏:そうですね。昔のテープをご存知の方は、VHSのビデオテープもそうですが、ちょっとカビが生えてしまったとか、テープが剥き出てしまったとか、そういう問題があったと思います。ですが今の磁気テープは本体の素材自体変わっており、大分改善されていて、そういった問題は一切ありません。

※2 『LTO 7テープメディアの寿命評価』テープストレージ専門委員会 2019年1月

4.磁気テープの運用方法について

藤田:磁気テープを使用して長期保存する際には、どういった運用をすればよいでしょうか。

板垣氏:マイグレーションは必要です。磁気テープ自体の耐久性は先ほどの加速試験で確認できていますし、昔の磁気テープでも少なくとも30年以上は使用されているという実績もあります。しかし、磁気テープを読み書きする機械は特別にメンテナンスしないと30年は持ちません。加えて、データを扱うソフトウェアなども磁気テープほど長期間使えるものはないかもしれません。そういう観点でマイグレーションが必要になります。ケースバイケースですがだいたい5から10年に一度は必要だと思います。

藤田:では、磁気テープを保管する際に気を付けないといけないことはありますでしょうか。

板垣氏:メーカーによって磁気テープの保管環境が決められています。LTOテープの場合は、温度が16度~32度、湿度が20~80%なので、保管環境は厳しくはないです。普通のオフィス環境であれば大丈夫ですね。
もちろん、ゴミや埃があるような環境は良くないですし、直射日光が当たると温度も上がってしまうのでそういう場所には置かないでほしいですが、気を付けるのはそのような基本的なことだけです。

藤田:普通に保管していれば、特にこれをしないといけないということはないのですね。

【後編に続く】

【インタビュイー】

日本アイ・ビー・エム株式会社
東京ラボラトリー システムズ開発
板垣 浩(いたがき ひろし)
シニアソフトウェアエンジニア。26年間ストレージ製品の製造開発業務に従事。磁気テープドライブのファームウェアや磁気テープストレージ関連ソフトウェアの開発を行っており、現在はLTFSフォーマットを用いたアーカイブ用のソフトウェアを開発している。JEITAテープストレージ専門委員会委員。

【インタビュアー】

藤田彩香(ふじたあやか)
文書情報マネージャー(JIIMA認定)データ保全推進研究会事務局 株式会社ボウラインマネジメント所属 企業・団体における業務効率化をサポート。主に文書・映像、IoTデータ等の活用・管理支援、データマネジメント支援サービス、データ保全サービスAmberlt(アンバルト)、文書管理系サービスの普及支援などを行っている。

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